カトマンズ編

カトマンズ最後の夜
 ここカトマンズはドラッグの売人がかなり多い。
バラナシの3倍はいるような気がする。
とにかく一つの通りを歩くと2〜3回は声を掛けられるのである。
売人が多いと言う事は買う人も多いということ。
確かにここは人もやさしく風土も穏やかで世界中のヒッピーが吹きだまるには最適な場所だ。
僕が泊まっている宿にもそういう吹きだまっていそうな人はいた。
日本人なのだがいつも宿の前をうろついていて何するでもなくただ時間を潰しているように見えたのだ。
そして時々ホテルの従業員や他の泊り客と話しているのを見かけた。
その話し方がとてもいやーな感じだった。
一言も会話しなかったが僕はとにかく彼のような人間が嫌でたまらなかった。
無気力が空気で伝わってきていた。
きっと日本での生活がダメだったから、ここに逃げてきているのではないかと思う。
何も考えなくても時間を潰せるここに。
時にドラッグのやりすぎで死んでいく人もいるという。
ここはゆっくり死んでいくには最適の場所かもしれない。

カトマンズの街は賑わっていたが僕はこの街に絡めとるような死の匂いを感じ始めていた。
多くの旅人にとってここはゆったりくつろげる居心地の良い場所であろう。
でも、僕はこの気だるい空気に焦燥感を覚えた。
そう、この空気は春のぽかぽか陽気に似ている。僕は春が嫌いなのだ。
ネパールが春だとするとインドはさながら夏だった。
僕はいつの間にかインドが恋しくなっていた。
あんなに嫌いだと思っていたインドが実はくそ暑い夏だという事に気が付き始めていた。
大好きな夏だと。
もう潮時だ。
 僕は明日インドに向けて出発する。
ここは居心地がよすぎてなんだか飽きてしまった。
それに僕にはもうそんなに時間がない。前に進まないと。前を向いて進まないと。


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