探検生活

<深浦でサバイバルをしてみた>
2002年9月11日〜13日

その年の夏、僕はあるテレビ番組に熱中していた。
その名も「サバイバー」
アメリカではかなりの視聴率を稼いだらしいこの番組は日本ではさっぱり流行らなかった。 この番組は大自然の文明から隔離された環境で仲間が力を合わせて生活するのだが、数日に1回、同じサバイバー同士の投票によって追放者を決めるという非情なルールがある。それにより派閥争いや裏切りなど人間の汚い部分があらわとなり、「子供に見せられない」「ドロドロした人間関係など見たくない」と世間の評価はあまりよくなかったと思う。 しかし、この番組の核心はもっと奥が深いのだ。その一つは最後二人になったら追放された者の投票によって勝者が決定するルール。つまり相手を貶めることだけに力を注ぎ、恨みを買うような人間は決して勝つことができないのだ。この要素により駆け引きはより複雑化し、完成度の高い物語が作られたと思う。 「やらせ」で有名なTBSの番組ではあるが、それを考慮に入れても見逃すにはあまりにも惜しい内容の濃い番組であった。


と、ここで熱く語ったように、僕は「サバイバー」に影響され、「サバイバルなことをしてみたい」という思いから合宿を組んだ。「サバイバー」のように人間同士の駆け引きはないですが。

・合宿参加者:僕、hirakuta氏、みっちゃん、S太郎、U人の5人。
・場所:深浦の海岸。
・所持品:ブルーシート、鍋、ライター、魚を捕るための素潜り&釣りセット、水各自500ml、シュラフ、そして各々食料以外で好きなもを一つ。
・ルール:3日間、決められたエリアから外に出ないこと。


<合宿1日目>

天気は晴れ、目の前には砂浜と、打ち寄せる高波と、岸壁と、川。
サバイバルが始まった。
僕はまずライターを使わずに火を熾してみる事から始めた。「サバイバー」では火を熾すのに数日かかるなどえらく苦労していたが 実際のところどうなのか試してみようというわけだ。 僕は海辺に落ちている手ごろな木を拾い、比較的まっすぐな棒を手で回して擦りつけた。
しかし、煙すら出なかった。
次にその棒に石を乗せて紐を巻きつけ慣性を利用する火熾しの道具を作ろうとした。
が、石が固定できなかった。

さらに次は落ちているペットボトルに海水を入れレンズを作る。
光が一点に集まらない。

しゅーりょー。

そんなことをしているうちに、ゲストとして参加していたCOG氏が魚を二匹取ってきた。
COG氏の話では波が高いので波酔いしやすく、しかも砂浜のせいか魚はとても少ないらしい。僕も準備し潜ってみたがかなり厳しい。岸壁の方に泳いだが打ち寄せる波に引きずられて岩に叩き付けられそうになった。そんな状況下ではあったが、僕は運良くタコを見つけた。ヤスで刺すまでもなく僕は手でむんずと掴むとタコも必死に抵抗して岩にしがみついた。 僕は力任せに剥ぎ取る。佐渡島で釣ったやつより一回りでかい割と大きなタコである。そのほかにも小さな貝類を数個持って僕は海から上がった。

 さて、この砂浜のそばには小さい川が流れている。この時点ではみんな見逃していたが、ここにはウグイと呼ばれる最大40センチぐらいの魚が沢山いた。なかなか素早い魚ではあったが僕はここで30センチ強と20センチのウグイをゲットした。30センチ強のウグイは力も強くただヤスを刺しても逃げられてしまう。刺したところで川底にぐりぐりと押さえつけしっかり刺さなければならなかった。この日一番の大物であった。


夜になり、僕たちは(ライターで熾した)焚き火で獲物を焼いて食った。ウグイはともかく、タコは吸盤部分に砂がしこたま詰まっておりジャリジャリと最悪の食感だった。他のメンバーはこれでもうまいと言いながら食っていたから余程腹が減っていたのだろう。
 夜も深まり、バイトで遅れたみっちゃんが梅酒を持って現れた。

あれ、酒って食料のうちに入るんじゃないの?と疑問に思ったあなた、違うんです酒は食料ではないんです、心のガソリンなんです。腹が減ってイライラしてるから酒ぐらいいいじゃん!
と、特別にみっちゃんに酒を買ってくるようお願いしたわけです。
で、みっちゃんは2リットルの梅酒を買ってきたのだが、よく見ると何か違う。




「白梅酒パック」って・・・






日本酒じゃん!




激マズお徳用白梅はほとんど誰にも飲まれなかった。




<合宿2日目>

朝食は昨日のタコの残りを食べた。わずかな量である。
この日の海は昨日よりさらに荒れていた。僕はhirakuta氏といっしょに潜ったが波が高くとても潜っていられる状態ではなくてすぐに退散することになった。しかも帰ってくる途中に大事なヤスを落としてしまった。僕のヤスは既製品のヤスではなく、ホームセンターで売っている大き目のヤス先に鉄のパイプと強力なゴムを付けた特製ヤスである。ほかのヤスでは代えが効かない。

 一方この日はM太郎が小川で網による追い込み漁をして数匹の小魚を捕ってきた。この日とれた動物性蛋白はこれだけ。釣りもダメだったし、拾ってきたプラスチックで作った罠にも全く掛からなかった。

 これではまずい、しかし朝からほとんど食っていないので海に入る体力はもう無い。仕方がないので僕は海辺の草むらを歩いて食える植物はないか探した。そして妙な植物の実を見つけた。その実はまるでさやをはいだ後の豆のようで、一口食べてみるとマスタードのようなピリピリした辛さがあり、少し豆の風味がした。
辛うじて食える!
でも、僕以外は誰も食べず。

その間、他のメンバーはほんのり甘い木の実を取ってきた。
サルナシ実である。この実は人が食べても問題なく、おいしく頂いた。
しかし、量が量だけにこれだけではとても足りない。

他に食えるものは無いか?

僕は思案した挙句、道端に沢山生えているクローバーに注目した。

「そういえば三つ葉ってスーパーにも売ってたよなあ・・・」

僕は激しく勘違いをしてクローバーを集めてきた。
生で食べても美味しくないので、煮てみることにした。
そして茹で上がったものを食してみる

・・・・

マズイ!っていうか食えない。

茹で上がったそれはほとんどが繊維質で食べられなかった。
その昔、親が拾ってきた子ウサギにクローバーを食べさせてあげると、喜んで食っていたが、ウサギはウサギ。人が食えるシロモノではないようだ。
しょうがないので茹で汁をお茶の代わりに飲んだ。川の水の嫌な匂いが消えて飲めるようになった。

それにしてもU人はこれらのものを全然食べないのね。他のメンバーは空腹のため木の実などはがつがつ食っていたが、U人だけは食わない。プライドが勝っていたようだ。

この日の夜は、風が強く雨が少し降った。
皆シュラフとブルーシートに包まって寝た。
空腹に耐える長い長い夜だった。


<合宿3日目>

空が明るくなり僕は目覚めた。
しかし、まったく動く気がしない。
しばらくそのまま横たわって時間が過ぎるのを待った。
ようやく立ち上がると眩暈がして、立っているのもやっとの状態。
メンバーの誰もが動く気力を見せず、ただ時間が過ぎるのを待った。

もはや合宿は、ただの我慢大会と化していた。


合宿が終わり皆が真っ先にしたことは、近くの商店でジュースとお菓子を買って食ったこと。オレンジジュースが濃すぎて胃にしみる。ポテトチップスのあまりの美味さに放心してしまった。
弘前に帰ると皆で焼肉を食い放題しに行ったが、胃が縮小して全然食えず、すき屋で牛丼で十分だったのでは?と後悔した。

一夏の思い出である。


TOP