デリー編

<旅行者危険地帯:コンノートプレイス>
 だいぶインドにも慣れてきたようだ。
今日はコンノートプレイス付近を散策してみることにした。
コンノートプレイスとはニューデリーのすぐ南にある円形放射状に道路が走る地区のことでデリーの政治・経済の中心地区と言う。
インドの首都はニューデリーだと言うことだが実際にはニューデリーもオールドデリーも近すぎて同じ街である。
そしてさらに言うなら首都としての機能を持っているのはコンノートプレイス周辺とその南の大統領官邸や国会議事堂がある地域周辺だろう。
ここはバックパッカーが多く泊まるニューデリーのメインバザールよりもだいぶ近代的だった。
初めニューデリーに着いたときはこれが一国の首都なのかと目を疑ったが、コンノートプレイス周辺ならまあまだ納得できるだろう。
コンノートプレイスには各種オフィスが立ち並び大きな土産物屋(*3)や銀行、マクドナルドなどがあった。
しかし、僕がその周辺を歩いたときに感じた印象はあまりよくなかった。
とにかくしょっちゅう呼び止められるのだ。
しかも怒鳴り声で。

「HELLO!(怒)」
とか
「HEY!(怒)」

と何故かみんな怒っているように聞こえた。
そして話を聞いてみると大抵「どこに行きたいんだ?」という質問をしてくる。
要は客引きなんだろうけどそんな態度ならますますこっちだって意固地になる。
怒鳴らなくたっていいじゃんねー。
僕はかなり気分を害して早々にコンノートプレイスを離れた。
その後郵便局に立ち寄り、ラクシュミ・ナーラーヤン寺院を訪ねた。
そこでカタコトの日本語を話す絵葉書売りと値段交渉をして楽しんだ後はインド門に行ってみることにした。
そしてそのときもまたトラブルがあった。
まず寺院からインド門までは4kmほどあり歩くにはちょっと大変なのでリクシャーを捕まえる必要があった。
だが、ニューデリー付近にはたくさんいたリクシャーもそこは場所が悪くほとんど通らない。
たまにやってくるリクシャーも全て人を乗せていたりした。
そこで歩きながら捕まえることにしたのだがしばらくして道に迷ったのに気が付いたのだった。
街中にいるはずが何故か緑がふんだんな町外れに出たような光景が広がっていた。
どう考えてもおかしい、地図を見て太陽で方角を確認していたのに。
そうしてうろうろしていると怪しげな男が近づいてきた。
みすぼらしい浮浪者のような男だ。
言っていることがよく分からなかったが要は「ドラッグを50Rsで買え」ということだった。
参ったな。
そこは人影もまばらで奴もかなり強引に迫ってきた。
そして何よりも厄介なのは奴が現在ラリってる最中の可能性が高かったことだ。
目がちょっと逝っちゃっていたのだ。
でも、万が一やばい雰囲気になっても何とかなりそうではあった。 奴は背も小さく痩せていて戦ってもあまりやられる気はしない。
僕は適当に合いの手をいれてごまかしながら道を引き返していた。
そしてしばらく歩くと道の向こうにオートリクシャーが止まっているのが目に付いた。
しかも、その運転手は僕に向かって乗れと言う合図を送っているではないか。
どうやら僕が絡まれているのを察知してくれたのだろう。
助かったわい。
僕は急いで乗り込むとオートリクシャーは男を置き去りにして走り出した。
これでようやくインド門に行ける。
僕は一転上機嫌に変わった。
ところがである、その運転手もなかなかの曲者で、頼んでもないところに連れて行こうとした。
これもよくあるトラブルで奴らは悪徳旅行業者に連れて行ってコミッションをもらうのである。
そして連れて行かれた人は強引に高額なツアーも組まされると言うわけだ。
デリーでシュリナーガル(*4)に行くツアーを組まされた人が逃げられないように湖に浮かぶボートハウスで軟禁状態にされお金を脅し取られたと言う話もある。
その運転手もそういった悪徳業者に連れて行こうとする輩だった。
初め僕はインド門に行きたいと言うと地図を見せろと言われた。
見せるとなんだかんだ適当な話でごまかされ結局は裏通りに連れ込もうとしたのだ。
こっちはこっちで
「ちゃんと連れて行かないならお金を払わない」
ときっぱり言い続けたが聞く耳を持たず、オートリクシャーが止まったのは大きな通りのすぐ裏にある怪しげな場所だった。
彼が連れ込もうとしたその建物の前には二人の男が立っていた。
二人ともガードマン風の屈強な体でサングラスをしていた。
そして僕と目が合うと彼らは手招きをしながら日本語で

「すいません。」
「どうしました?」

と声を掛けてくる。
怪しい・・・。
なんぼなんでもそりゃばればれですよ。
もしそのままその建物に入ってしまったら彼らはきっと出られないように入り口を塞ぐだろう。
こんな怪しげなところに入ってたまるか。
僕は運転手に向かって
「もういい!金は払わないからね!」
とあえてガードマン二人は無視して怒ってその場を立ち去った。
後ろからなおも場違いな日本語が聞こえてきていた。 さて、うまく奴らはかわしたけれどここはどこだろう?
しばらく歩くと見覚えのある場所に出てきた。
そこは朝通ったコンノートプレイスのすぐそばだった。
結局インド門には行けなかったけれどここから宿も近いしちょうど都合がいい。
何もかもうまく行かないがタダでリクシャー乗った分得したと思えばいいか。
今日はそのまま帰ろう。


夜に飯を食おうとファストフードの店に入った。
一人で佇んでいると店の親父が声を掛けてきた。
どうやらここは日本人がよく来る場所らしい。
彼は日本人と仲良く一緒に写った写真をたくさん僕に見せてくれた。
ほうほう、随分たくさんの人が来てるのね。
ぱらぱらとめくっていると、中にひとつ気になる写真があった。
背景に漢字の看板が写っている。
「岩石旅行社」
はて、このネーミングはちょっと引っかかるものがある。
親父に聞いてみたらやはりそうだった。
猿岩石のことだった。
猿岩石と彼の関係はよく分からなかったが、彼はその名前で旅行社も経営しているらしい。
それから日本語の上手なアジア系の店員を紹介してくれた。
彼に言われたことばは
「騙されないように気を付けな。」
だって。
分かってますって。

(*3)土産物屋:エンポリウムと呼ばれる国営の土産物屋。高級なものを扱っている。
(*4)シュリナーガル:カシミール地方に近い都市で治安が悪く旅行者は気を付けたほうがいいらしい。
 


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