カトマンズ編

カジノ!!
 次に僕が向かったのはカジノだった。
カトマンズにカジノ?
あるんですよこれが。
高級ホテルの中にそのカジノはあった。
ホテル利用者じゃなくても遊べるようだ。
せっかくあることが分かったのだしこれは行かずにはおれないでしょう。
カジノは小説「深夜特急」でも最も面白いところだった。
僕もあの興奮を少し味わってみたかったのだ。

 僕はホテルアンナプルナの敷地に入っていった。
カジノがある建物は別になっていて豪華な作りであった。
もちろんカジノなんて初めてなわけでどうすればいいかよく分からない。
僕の格好といえば薄汚いジーンズにフリース。
こんなでも大丈夫なのかと思ったが、受付の人はあっさり通してくれた。
一階はスロットマシーンと日本のゲーセンにもあるコイン落とすやつとロボット競馬のゲームだった。
全く人がいない。
そりゃ真昼間から来てりゃそうだ。
問題は二階だ。
ルーレットやカードゲームの台が並ぶ。
正装したディーラーが何人もいる。
警備もしっかりしてそうだ。
これぞカジノ!テレビや映画で見たような風景だった。
人はまずまず集まっていた。
しかし、客も金持ちそうな連中ばかりかと思ったらそうでもなかった。
ビシッとスーツで偉そうな身なりの紳士もいればどう見ても普通のおっさん(作業着?)も沢山いた。
僕は少し安心した。
僕はカードゲームのルールはちゃんと分からなかったからルーレットで遊ぶ事にした。
こういうのは事前にルールを熟考して確率まで完璧に覚えないと対等に戦えないというのが僕の持論だ。
いきなりルールを教えられてもダメだ・・・。
よって、単純明快なルーレットで決まり。
1コイン10Rsと20Rsの台がある。
10Rsのほうは客でいっぱいだったので僕は客が少ない高レート20Rsの席に座った。
しかし、不思議なのがここはネパールなのにもかかわらず両替の基準となるお金がインドルピーなのだ。
よって1コインは50円ぐらい。
僕は丁度所持していた200インドルピーを10枚のコインに替えた。
僕は少し他の客の様子を見てみることにした。


 ここで、ルーレットのルールを簡単に説明しておきたい。
何をいまさらと思うかもしれないが僕はここに来るまでルーレットでカジノがどうやって儲かるのか知らなかった。
まず、ルーレットは小さな玉を回して0から36までの数字が書いたスロットに落とす。
このとき玉は何度かスロットにはじき返されそれぞれのスロットには全くランダムで入る。
ディーラーが目的の数字に入れることはほとんど不可能だろう。
それにプレイヤーはディーラーが玉を回した後でも掛けることが出来るし、
わざわざイカサマしなくてもカジノ側は十分儲けられるのだ。

何故か?

 ここで倍率を見てみよう。
どれでも一つの数字に掛けた場合その倍率は36倍。
一つコインを掛け当たると36枚帰ってきて、負けると戻ってこない。
他にEVEN(偶数)とODD(奇数)があるがこの倍率は2倍。
10枚掛けると20枚になって戻ってくる。
これらは一見その期待値が掛け値と同じように見えるが違うのだ。
「0」が曲者。
0から数えるとスロットの総数は実は37個あり、数字一つに掛けた場合、当たる確立は1/37。
期待値は36/37。
また、EVENとODDも当たる確率は13/37で1/2ではない。(注:0はEVENではない)
よって賭けを繰り返せば確率的には財産は確実に目減りしていくのだ。
他に賭け方はいろいろあるが全て期待値は36/37である。
そうやって少しずつカジノ側は儲けていくというわけ。

 よって、もうこれは完全に運なのだ。
後は神頼みのみ。神のみぞ知る。
でも、掛け方によってはお金を無駄に消費する。
例えば目の前に座っているおっさん。
金持ちにはとても見えない感じだけどさっきから一度に何十枚も掛けている太っ腹だ。
でも、その掛け方がだめだ。
全然ダメ。
ポンポンポンポン置いてもう盤面がコインだらけだ。
それじゃ、意味ないよ。ローリスク・ローリターンだもん。
バンバンいろんなとこに置いてるけど当たってもそれじゃせいぜいたかが知れてる。
繰り返すごとに目減りしていくだけだよ。
バカだね。
せっかく高い期待値なんだから僕のように一気に勝負に出なくちゃ。

これでどうだ!
僕は一度に半分のコインを掛けた。
つってもたったの5枚。
しかも弱気で倍率低いEVENだ。
掛けの終了を知らせる鐘が鳴った。
さあ、これで当たらなければソッコー終了してしまう。

頼む入ってくれ・・・・。







「EVEN」


やった。入った!

これでコインは15枚に増えた。

しかし次に赤に掛けて外してしまい、また10枚に逆戻り。
そうやって2〜3回繰り返しているうちに僕は神の声が聞こえ始めた。
なんとなく掛けるタイミングが頭に浮かびその瞬間入れると当たるのだ。
ダメだなと思ったときは見送る。
掛けるのはほとんど手元にあるEVEN。
僕はそれで30枚まで増やした。
僕はそろそろ一点掛けでもしようかなと思い始めた。
さっきから数字の12が気になってしょうがないのだ。
試しに一枚掛けてみよう。
僕はそのタイミングを見計らってここだと思うときに掛けてみた。






すると止まったのは。






「12」





あたったー!




神だ。神が光臨したぞ。




ギャンブルの神様が。





驚いたのは僕だけだった。
だって、所詮はチップ一枚。ディーラーも「あ、そう」みたいな感じだ。

その後、ギャンブルの神は去っていった。
というか、途中から参加してきたおっさんがやたらと邪魔で、鐘が鳴っても制止されるまでポンポン置くのをやめないのだ。
僕はそれに気が散ってインスピレーションは消えてしまった。
一進一退の攻防が続き、それでも結局最後はチップは50枚。
5倍の大勝利で終わる事ができた。
といっても1000Rsだから2600円ぐらいか。

でも、僕にとって重要なのは金額じゃない。
勝ったということなのだ。

終わったとき僕は頭に血が昇っていた。
「深夜特急」では主人公がカジノのイカサマを見破るという醍醐味(?)を味わっていた。
ルーレットではそんなのは無理だがそれでもこの興奮を味わえたというだけでも僕は満足だった。
カジノを出ても僕はまだ興奮していた。
それはホテルに帰っても変わらなかった。
顔が熱い。
皆この熱にやられて溺れていくのだろうか?
そうだなそれもいいかもしれない。
そう、僕はまだ一歩踏み出せていない事に気付いていた。
今日勝ったのだって所詮は2600円。
僕はもう一歩踏み出せるはずだ。
もう一歩行けばまた違う世界が見えるかもしれない。
そうに違いない。
僕は明日またカジノに行ってみることにした。


カジノの一階。ちょっと見ゲーセンかと思った。二階は撮影禁止と言われた。


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