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クレイジーナイトバス
結局カジノにはまた行ってみたが、合計約1000インドルピーすってしまった。
昨日増殖した分が全部持ってかれたわけだ。
「もう一歩」踏み込んでみたけど何も得られるものはなかった。
収支はマイナス200インドルピー。
でもちゃんと楽しめたからそれでよしとしようではないか。
ホテルのマネージャーは強欲な人だ。(僕をこのホテルに連れてきたあの男。実はマネージャーだったのだ!)
しつこくインド行きのバスのチケットを自分の宿で予約させようとしていた。
そして、インドに向けて出発するときもやたら自分のバイクで送りたがった。
その送迎代は300Rsである。馬鹿だこいつ。300Rsって宿代の何倍だと思っているんだ?(4倍)
その強欲さがいかに旅行者の信用を無くしているかこいつはまるでわかっていなかった。
午後6:00僕はマネージャーの送迎を断り、歩いてバスの発着所に向かう事にした。
でも僕はその距離を甘く見ていた。
予想以上にバス発着所は遠く、僕は人混みの中を走らなくてはならなかった。
どんどん日は沈んで行く。
午後6:30。
出発予定時刻ぎりぎりで間に合った。
バスは一度乗り換えたあと国境に向けて出発した。
ネパールにしてはかなり上等なバスだ。シートも悪くない。
しかし、寝るとなると事情が違う。
町を離れると道路がボコボコしているところが多く寝心地はかなり悪いのだった。
真っ暗な道をバスはひたすら走る。
僕は振動を我慢しつつ騙し騙し眠るようにした。
しばらくうとうとしているとバスの動きが悪くなったことに気付いた。
渋滞だ。
検問だろうか?
僕はまた眠りについた。そして何時間眠ったろうか、次に目覚めたときもまだ車は動いていなかった。
「あれ?随分長い検問だな。」
僕は外の様子を眺めてみた。
そして驚くべき光景を見たのだった。
対向車線にまでずらっと並ぶバス。
僕はうとうとしながら覚えていた。
遅々として進まない渋滞に痺れを切らしたのか、後ろから我先にとトラックやバスが追い越していったのを。
そして・・・その結果・・・見事に詰まった。
これでは対向車が全くすれ違えないではないか。
こいつらは渋滞を悪化させたいのか?
どうかしてるよ。クレイジーだよ。
バスは全く進まなくなっていた。
そりゃそうだ対向車線までバスやトラックで埋まっているんだから。
もうバスはエンジンを切っている。進もうとすることすら諦めたのか。
これで本当に明日の朝には国境に着くのだろうか?
かなり不安だ。バスの外は静かで漆黒の闇に覆われていた。
他のバスやトラックもエンジンを切っているようだった。
しかし、時折外から人の声が聞こえてくる。
聞きなれた声だ。
これはこれまでも旅のいたるところで聞いてきた。
物売りの声だった。
こんな真夜中に!!?
疑問は一気に膨らむ。
対向車線までバスで埋まる渋滞と物売りの声。
僕は疑問を解決するべく外の様子を調べてくる事にした。
バスを降りるといきなり立ちションしているおじさんがいた。
彼も外の様子が気になったのだろうか?
そのおじさんに聞いてみることにした。
彼は一言「CHECK」とだけ言った。
チェック?つまり検問のことか。
この渋滞はやはり検問が原因なのか。
周りを見渡してみると想像以上に渋滞は長かった。
そして、どのバスもエンジンを切りひっそりと眠っている。
やはりそうか。夜間は検問が開かないのだ。
どのバスも毎日この場所で待機する。
だからそれに目をつけて物売りがやってくるというわけか。
でも、対向車線までバスで埋まるのはどうかと思うが。
検問が開いても全く身動きが取れないのではないか?
僕は渋滞がどれだけ長いのか見てみたくなった。
もう、見渡す限りバスかトラックなのである。
遠くに灯りが見えたので僕はそこまで行って見ることにした。
ひょっとしたらあれが検問所かもしれない。
しばらく歩いているとだんだん目も闇に慣れてきた。
それとともに何もないと思われたそこらの闇に意外なほど多くの人がうごめいているのに気がついた。
闇の中そこかしこで話し声が聞こえる。
焚き火を囲んで暖をとっている人たちもいた。
皆バスが進まないので降りてきた人たちだろう。
しかし次に見たもの。それには驚いた。
バスとバスの間に人が数人寝ているではないか!
何でわざわざそんなところに寝てるんだ?
寝てる間に轢かれても知らんぞ。
500mぐらい歩いたろうか。
遠くに見えた光が近くなってきた。
それとともにその正体も明らかになった。
その明かりは検問所の明かりではなかった。
屋台だった。
数人の男が何かを貪り食っていた。
僕はその屋台も通り過ぎ、またはるか遠くを見た。
遠くに明かりが見える。
しかし、よく見るとそれも屋台。
いったいあと検問所までどれだけの距離があるのだろう?
そしてそこまでずっと対向車線がバスとトラックで埋まっているのだろうか?
途方もない。
元のバスに戻った時もう一つ僕は驚かされてしまった。
戻ってみるとバスの通路にゲロが・・・。
なんでバスの中に吐くんだ!
外に出せ外にな!
そういえば僕がうとうとしてたときもタンをわざわざ通路に吐いていたやつがいたっけ。
こんないいバスに何てことしやがるんだ。
こんなことするのはインド人に違いない。
きっとそうだ。
さっきバスとバスの間で寝てたクレイジー野郎もインド人に決まってる。
このおかしな状況はインドに近づいた証拠だ。
ゲロもそこはかとなくインドの香りがするぜ。
チクショー。
僕はそう心の中で罵りながらも久しぶりのこの感覚に少しわくわくしていた。
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