パトナー編

騙されてるよ
 結局その後一時間ぐらいでバスは動き出した。
すると対向車線にはみ出していた車が一斉にこちら側に殺到してきた。
そして、さらにその車さえ僕らのバスは追い抜いていく。
抜きつ抜かれつそれでもバスは意外なほどスムーズに走っていた。
あんなに渋滞していたのに・・・。
やがて朝になりバスは国境の町に着いた。
ここではまた出入国手続きをしてバスを乗り換えなくてはならない。

さて、僕はここでパトナーまでのバスチケットを新たに貰う事になっている。
カトマンズで貰った引き換え券と交換だ。
ここにある事務所のミスター・ゴパールという人からチケットが手渡されるはずだった。
事務所に出向いていくとそこには利発そうな若い男が座っていた。
髭の濃い中年男を想像していたが意外にも彼がミスター・ゴパールだった。
僕はすぐにでもチケットが貰えるものだと思っていたがミスター・ゴパールは
「チケットはインド側の事務所のほうで貰ってくれ。彼が案内するから。」
と言い、中国系の男を紹介してきた。
まあ、面倒だけどインド側の事務所まで行けばいいんだろ。
そこまでは何とかよしとしよう、しかし次に彼がとった行動は僕に疑いを持たせるものだった。
彼は
「もうネパールルピーは必要ないだろ。ここで両替していきなさい。」
と言った。
言われるままネパールルピーを手渡すと返ってきたインドルピーがなんだか少ない。

「少なくない?」
僕は言った。
ミスター・ゴパール:「手数料を引いておいた。」
「あん?」
なんだい手数料って。僕が両替したのは小額だったが手数料がかなりの割合を占めていたのだ。
僕は抗議したが内心焦ってきていた。
彼らの話によるとバスは後30分ほどで出発するという。
インド国境までは結構な距離があるし入国手続きもしなくてはならない。
ここでのんびり言い争ってる場合ではないのだ。
これが彼らの狙いなら僕はまんまと罠にはまっている事になる。
バスの本当の時刻は確かめようがなかった。
しかし、たかだか20〜30Rsでバスに乗り遅れる事態だけは避けたい。
僕のその心を見透かすようにミスター・ゴパールは言う
「あとはもう両替しなくていいの?」
くそ!
「いや、もうない」
僕は焦る気持ちを悟られまいと静かに席を立ち中国男を連れて出て行った。
中国男は親しげに話してきたが僕はそれどころではなかった。
この男も信用できないのだから。
結構な距離を歩いて僕らはようやくイミグレーションに辿り着き入国手続きを済ませた。
時間はもう過ぎていた。
しょうがない腹をくくるか。

とりあえずバスに遅れたらこの男をどうにかしよう。

そのあとインド側のチケット屋を通りかかると事務所は閉まっていて
「チケットはバス停で待ってる人が渡すよ」
と中国男は言った。
そしてバス停に行ってみると確かにその人物はいた。
しかもまだバスは出発していなかった!
その男はこう言ってきた。
「チケットの引き換え券を見せろ」
なに!?引き換え券はゴパールの事務所でもう渡したっつーの。
どういうことよ。
しかし僕がそう言うと意外にもすんなり僕をバスの中に案内してくれた。
なんだ、いいんじゃねーかよ。
僕は座席に座りようやく一息つくことができた。
「一時はどうなる事かと思ったけどなんとかなったな。」
だが、僕はしばらくして重大なミスをしたことに気がついたのだった。


「チケットもらってねー。」


そう気が付いたときにはもう後の祭り。
さっきの男も中国男ももうどこかに行ってしまった。
やりやがったなー。
ていうか迂闊だった。
その後日本人の男女が乗り込んできた。
僕は彼らにそのいきさつを話したがどうにもできないようだった。
とりあえずチケットのチェックがなければ問題ないだろうということだ。
だが、出発直前になってチケットのチェックはあった。
チェックの男が近づいてきて僕は焦った。
しかし、その場でお金を払えば乗せてもらえるらしい。
現地の人はみな直にお金を渡している。
よかった。さていくら取られるのか。
チェックの男が言った金額を聞き僕は驚いた。
「90Rs」
「はい?」
高いのではない。やたらと安いのだ。
日本人の男女も驚いた様子だった。
彼らが買ったチケットは国境からパトナーまでのものだったがそれでも270Rsだという。
三分の一だよ。
ありえねー。
つまりはさっきのように国境で騙されようが騙されまいが大差なかったということか。
カトマンズでチケット買った時点ですでにぼられていたって訳ね。はああ。
チケット屋信用するべからず。


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