パトナー編

車両がない!?
 パータリプートラには入れなかったので僕は別の公園で暇を潰す事にした。
そこにはゴールガルという卵形の建造物がありその上に登るとパトナーの街と広大なガンジス川が一望できる。
下に戻って僕が読書をしているとさっきまでクリケットをして遊んでいた子供たちが珍しいものを見るように寄ってきたりした。平和だ。

 夜になり列車が出発する時刻になった。
目の前にカルカッタ行きの列車が止まり、乗り込む車両を探す。
昨日国境からのバスで一緒だった若い日本人の男女と再会した。
彼らも同じ車両に乗るようだ。
車両番号「TS」。 番号じゃない気もするがまあいい、聞いてみよう。
人に聞くと最後尾の車両だと言い放った。
僕らは最後尾まで走る。
だが行ってみると乗っている乗客に違うといわれた。
それでまた急いで戻って探してみたのだがそうこうしているうちに列車は出発してしまった。
ヤバイ!とりあえず動き出した列車の適当な車両に乗り込んでしまった。
隈なく探したけど「TS」なんて名前の車両はなかった。
全力で走っていたためかかなり息が切れている。
そもそも列車の先端から最後尾まで2〜300メートルはあるのだ。
なんの表示もなしに探すのがいかに大変なことか。
僕は次の停車駅でもう一度最後尾に行ってみることにした。(車両同士は通路で繋がっていないことが多く、繋がっていない車両間を移動できるのは停車時しかない。)
だがやはり違うらしい。
しかもそこの乗客が言うにはこの車両は切り離されるのだという。
まずい、戻らねば。
それにしてもなんなんだ?いったい「TS」ってよ。
始め最後尾だと言われたときはてっきり「TAIL」の「T」かと思っていたのに・・・。
列車はしばらくしてまた停車した。
僕はあてもないまままた別の車両に乗り込んだ。
しかし、あの日本人の男女もうまく乗り込めたのだろうか?
列車が走り出したとき別々の車両に乗り込んだからな。

僕はひとまず車両隅の狭い空間で落ち着くことにした。
そこには無賃乗車な人々がいた。
彼らにも聞いたが要領を得ない。
一人に「ヒンディー語も分からないし英語も分からない。いったいお前は何をしにインドに来てるんだ?」とまでいわれた。
無賃乗車に言われたくないわい。
別の人に聞いてみた。
すると親切な人もいたものでチケットを見せろと言われ、見せるといろんな人に聞いて回ってくれ、その人たちと長い議論が始まった。
あーでもない、こーでもないとガヤガヤ言い合った結果どうやら分かったらしい。
僕をその車両まで連れて行ってくれた。
そこにはあの日本人の男女もいて、お互い「ああ!よかった」とほっと胸をなでおろしたのだった。
そう、ここが「TS」と呼ばれる車両だ。
意味を聞くと「T」から始まる言葉はヒンディー語で英語に直すと「EMERGENCY」だという。
なんでも通常の二等寝台はいっぱいなので「緊急」に追加された車両の事を言うらしい。
僕は連れてきてくれた男に非常に感謝したが彼は恩着せがましいようすも全くなく颯爽と帰っていったのだった。
いやあ、ありがたやー。
ほっと一息ついた僕に隣の人がよく話しかけてきた。
彼の英語は分かりにくかったが辞書を活用して会話を楽しんだ。
しばらく話したあと彼は妙な英単語を使い出した。
「abduct」
・・・誘拐?
にこやかな顔して誘拐とは穏やでないな。
いったいどういうことだろう。
よくよく聞いてみると彼は無賃乗車らしい事がわかった。
無賃乗車のことを彼らは「abduct」と言うらしい。
それにしてもどうりでおかしいと思ったのだ。
どう考えても一人多いし狭い。
初めから堂々と座っていたからてっきり予約しているのかと思っていた。
はは、こうも堂々とやられると怒る気もしなくなるわ。
彼は30分後の駅で降りるらしい。
車掌が来るタイミングも熟知していつのかもしれない。
あともうしばらくこの面白い奴と話していよう。


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