カルカッタ編

ボランティア初日
 早朝、ヘギョンとその友達と共にマザーハウスに向かった。
続々とボランティアの人たちが集まって来ていた。
総勢20〜30人で見た感じ日本人1/3、韓国人1/3、欧米系1/3ぐらいの比率だ。
意外と韓国人(中国人かも?)が多いのには驚いた。
昨日僕が気になっていた子も来ていた。彼女は小菅さんと言った。
僕は小菅さんに昨日のラジュについて思っていることを話すと、大して驚いた様子もなく、
「多分、そんなに危ない人たちじゃなくて、ただ何か買わせたいだけだよ。」と言った。
昨日小菅さんと一緒にいた青年は彼女にこう言ったらしい。
「あの男はバラナシ出身だといってるけど、多分違うね。おそらくニューマーケットの人だよ。」
ラジュはただの手の込んだ客引きというわけだろうか?
小菅さんも何度もああいう感じの人に誘われて付いていっていろいろ買わされたりしたけど大した事なかったらしい。
そんなものなのだろうか?
そうだとするとなんとも馬鹿らしい、僕は無駄に気負っていたという事になる。
いずれにせよ、今日は彼らにまた会うのだ、それで全てが分かるだろう。

 さて、マザーハウスでボランティア達が働く施設は全部で4箇所ある。
「孤児の家」「障害者の家」「女性・薄弱者の家」「死を待つ人の家」だ。
ボランティアは、まず始めにこの本部に集合し、簡単な朝食を食べてからそれぞれの施設に別れていくのだ。
ヘギョンたちは孤児の家に行くようだ。
小菅さんはずっとカーリー・ガート(死を待つ人の家)に行っているという。
僕はカーリー・ガートに行く事にした。
何故かと言うと、やはり初めてなので話せる人がいたほうがいいし、カーリー・ガートが一番人手が要るという話だし、 あとは、死を待つ人たちというのがどういう人たちなのか見てみたかったというのが大きかった。

 食事が終わると説明も何もなくみんなばらばらに動き出した。
あれ?登録って必要だと思ったけどどうすればいいのやら?
新参者にとっては戸惑う事も多い。
僕は登録せずにただ人の後ろに付いて、カーリー・ガートに向かった。
カーリー・ガートの施設はその名の通り昨日行ったカーリー寺院のそばにあるらしい。
遠い。
送り迎えもなし。
しょうがないか、好きで来てるんだもんな。
しかも、今日はどうやらストライキらしく、電車やバスが使えないという話だった。歩くしかないのか?
しかし、大分歩いた後、バスがやって来るのを見つけた。
ストも、状況により変化するらしい。
若干混んでいたバスの中では、小菅さんは何か考え事をしているようで、表情には少し陰が差していた。どうしたんだろう。
バスを降りて少し歩くと、乞食の子供が5〜6人わっと寄ってきた。
それだけならよくある事だが、欧米人のおばさんが一人にバナナをあげたために大変な騒ぎになった。
一斉に子供たちはそのおばさんに群がり、手提げ袋に入っていた食べ物があっというまに全部彼らに持っていかれてしまったのだった。
「あげるからダメなんだよ。」
僕の隣で歩いていた日本人で針師のカナモトさんは言った。
・・・そうだな。
食べ物がなくなっても子供たちはおばさんの周りから離れようとせず、おばさんは大変困惑していた。
一度でも彼らに物を与えたらお終いなのだ。トラブルに会わないためには無視するのが一番いい。
しかし、僕は思うのだ。
そう言う僕たちは今何をしに行っているのか?と。
ボランティアをしに行っているのではないか。
無償の愛を捧げるのに、死を待つ人と乞食の子供に違いはあるのか?
カナモトさんの言葉ももっともだが、僕にはどうも釈然としないものが残った。
僕はここにいる何もあげない全ての人に、どう思うのか聞いてみたかった。
例えばこの路上に死にかけた人がいたとして僕達は救いの手を差し伸べるだろうか?
よくあることだと通り越してしまいはしないだろうか?
僕は心配だ。


 一同はカーリー・ガートに着いた。
仕事は新人にとっては分からないことだらけだった。
言葉も不自由だし、何をどうすればいいのかきちんと説明してくれる人はいない。
僕は気後れしがちだったが足手まといにだけはなるまいと頑張っていた。
やる事は次から次へと出てくる。
およそ100人分の食器を洗い、汚れた服や毛布を洗濯し、全員を順番に風呂に入れてやり、食事を配り、自力で食べられない人には食べさせてやり、床ずれをしないようにマッサージをしてやる。
かなりのハードワークだったが皆黙々と働いていた。
足や手がなかったり死にかけている人が沢山いたが、かわいそうとかいちいち考えている余裕など全くなかった。
男の患者と女の患者は別の棟で、ボランティアは食器洗いと洗濯以外は男女別に働いていた。
昼の休憩が唯一全員集まれる時間だった。
洗濯物が一面に広がる屋上で皆昼食をとった。
本部に行かないで施設に直接来る人もいるので、ボランティアは全部で14、5人にはなっていた。
本当にいろんな人がいる。
何ヶ月も、何年も続けている人だっているのだ。
一体どんな理由でボランティアをしようと思ったのか。 一人は自分の居場所があるからだと言った。
分かる気がする。
僕はまだあまりなじめてないが、ここには同じような仲間がたくさんいる。
続ければきっとこの仲間や患者達とは強い絆で結ばれていくだろう。
それに、ここでボランティアをやる事でカルカッタに留まる理由ができる。
旅は惰性で続けるのはある意味非常に辛いことなのだ。目的があるに越したことは無い。
それから、ただ純粋に人のために何かしたいという人も多いと思う。

ここにいる目的。
僕の場合はどうかというと半分以上がまだ好奇心だ。
何でもやってみたいし、いろんな人に出会い、考えを知ることは自分の糧になる。

 昼食後、再度仕事をこなし今日の仕事は終わった。
結構皆ばらばらに帰っていった。
僕はカルカッタに滞在できる残りの2日間をボランティアに充てることに決めた。
明日はもう少し仕事ができるようになっていると思う。


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