カルカッタ編

ただの商売なの?
 僕は今日またラジュと会うため、待ち合わせ場所のリンセイホテル前に行った。
しばらく待つとラジュのほかに今日はラジュの兄の友人なる人達が二人登場した。
そのうちの一人は目がやたらとぱっちりとした、銭形警部風の面白い顔の人だ。
彼の顔が面白いのでニヤニヤしながら付いて行くと、意外にもサモサ(*17)とランチをおごってくれた。
しかし、やはりそれは獲物を釣るための餌だったのだろうか、
結局僕は買い物に誘われてしまった。
「パシュミナのショールを買わないか」
赤い服の(銭型じゃないほう)青年が言った。
「今日はストライキだから店はほとんど閉まってるんだ。でも、特別にいいモノを扱ってる所を紹介してやるよ。」
「今日は政府が休みだから、税が免除されて40%ディスカウントできるんだ!それに4人で店に行けば最大50%引きになるよ。」
おめでたい話だ。
日本人を馬鹿にしすぎだ。
しかも、話し始めると彼はもう完全にセールストークになっていた。
初対面でも5秒で友達だとか言うくせに、結局はお客さんなんだよな!
それでも、僕は彼らに付いて行った。

案内されたのはなぜか入り口を半分閉めてある小さな店。
その中の薄暗くて狭い店内でラジュと共に僕はパシュミナのショールを見せられていた。
説明はなぜか赤い服の青年がしている。
店主が余り英語を話せないかららしい。ラジュと銭型は終始黙ったまま。
彼の説明は非常に分かりやすく、まるでテレビショッピングでも見ているようだった。
「このパシュミナは全部ハンドメイドで、職人が6週間かけて作ったものです。」
しかし、質は素人目にも分かるぐらいイマイチ。
僕はアンゴラのショールはないのかと聞くとちょっと高いけどねと言いつつ店主は取り出してきた。
値段を聞いてビックリ。
「6000Rs(15000円)だ」
!!!
これはもう笑うしかなかった。
1000円のフリースでも散々迷って買った人間にそれは吹っ掛け過ぎじゃないですか?
あまりに可笑しくて僕がニヤニヤ笑いをしていると店主はいくらなら買うんだと聞いてきた。
僕は「50Rs」と答えてやった。
僕の価値基準でいえばそのアンゴラのショールはバナラシで買った50Rsのウールのショールと大差無かった。必要ないしね。
しかし、店主は何かの聞き違いかと思ったらしく、もう一度聞いてきた。

僕:「50Rs」

店主:「ん?もう一度言ってくれないかな?」

僕:「だから、50Rsだって。」

店主:「あー、ここに書いてくれ。」

店主は僕にペンを渡した。(分からない奴だな)
僕は丁寧に50Rsと書くと、店主の顔は歪んだ。

店主:「500じゃなくて、50なのか?」

そうだよ、さっきから言ってるじゃんか。
しかし、あまり酷かったのか店主は怒り出してしまった。


店主:「出て行け!!(怒)」



僕は別に買うつもりもなかったので、店を脱出できたのは好都合だった。
こっちから出て行ってやるっつーの。
店を飛び出すと慌ててラジュが追いかけてきた。
そして、別の店の人を紹介してきた。
僕はその人に付いていったが、一見してそこは店ではなかった。
僕はぼろいその建物に入って案内されるまま階段を上がっていくと、何もない部屋に案内された。

「何もないじゃん。」
少し嫌な予感がする。

「何もないんだけどどういうこと?」

男は「ちょっとここで待ってて、今来るから。」と言った。

来るって何がくるんだよ。
何のためにこのすっからかんの部屋に呼び出したんだ?
僕は少し身の危険を感じたので

「オレを馬鹿にしてんのか?なんもねーじゃねーか!!!」

とキレ気味に強引に脱出する事にした。
ここは入り口を塞がれたら完全に逃げ場がないのだ。
階段を降りるときの時間がやけに長く心細かったのを覚えている。
僕は再び陽が射す路上に出るとラジュは待っていた。
どういうことだと食って掛かりたい気もしたが、やめておいた。
こいつはなんだか憎めないな。
ラジュとはまた明日会おうと言って別れた。
ひょっとしたらもう会わないかもしれなけど…。


(*18)サモサ:ジャガイモを小麦粉での皮で包んで揚げたインドのお菓子。お菓子といえどインドだけにやはり辛い。ごくごく一般的な食い物です。


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