デリー編

NEW DELHI
 ホテルを決めた後、とりあえず外に出て観光してみることにした。
ニューデリーの町並みは昨日の夜の陰鬱とした雰囲気とはうって変わって明るいものだった。
しかし汚く、カオスを極めているのに変わりはない。
そこらじゅうに生ごみ生活ごみが打ち捨てられていてそれを牛や犬があさっている。
うっかりすると彼らのうんこを踏んでしまうのだ。
路上では火をたいて暖をとっている人々がいる。
狭い路地にリアカーを引く人やサイクルリクシャー(*1) や、オートリクシャー、乗用車がわんさかやってきて怒声とクラクションが鳴り響く。
今更ながら今まで見てきた世界とのギャップに驚かずにはいられなかった。
まずは少しずつ心と体をインドに慣らしていかないと。
ということでまずは朝飯から。

 道を歩いていると小さな食堂があり日本にもありそうな普通のパンが並べてあったのでそれとチャイ(*2)を頼んだ。
値段は聞いたらあわせて12Rs(約30円)安いもんだ。
しかし壁に書いてある値段表を見ると11Rsだったことが判明した。
もちろん11Rsだけ払って出てきた。
しばらく歩くとニューデリー駅に出た。それにしてもすごい!人がいっぱい。
おそらく東京のほうが人は多いのだろうが皆それぞれ圧倒的な個性とエネルギーを 持っているためかその混雑振りといったら凄まじいものがあった。
日本なら人はただ黙々と歩くが、ここはインド!
すべての人が自分に迫ってくるような活気と迫力があった。
すごい!
ただ実際何人もの人が本当に迫ってきてやれこれを買えだの何だの大変だった。
「No!No!」と言って適当にあしらっても次から次へとやってくるのだ。
そして少しでも相手にする素振りを見せるともう大変!
どこまでもどこまでも付いてくる。やれやれ。

 僕はインターネットカフェを探してそこに逃げ込んだ。
今インドでは大きな町ならこのようなインターネットカフェが必ずある。
便利な世の中になったものだ。
これで電話よりはるかに安く、手紙よりはるかに早く連絡が取れるのだ。
早速メールを送った。
ここは一時間の使用が10Rsで安いほうだが日本語が 入力できないのでメールを受け取ったほうはローマ字でさぞ読みにくかったろう。



インドの公衆トイレ。見られまくりです。



 ネットカフェから出てぶらぶらしているとなんだかパレードのようなものに出くわした。
たくさんの人が旗を掲げ楽器を鳴らして行進している。
よく見ると彼らは誰かの顔写真を掲げている。
政治家か、歴史上の人物か?面白そうなのでその列に加わってみることにした。
しばらく歩いていると突然何かが背中にぶつかってきた。
振り返ると老婆が倒れている。
おそらく何かに躓いたのか僕の背中に倒れこんだのだった。
やせ細り長く歩き回る体力もなさそうな老婆だった。
彼女は他の参列者に抱えられ起こされた。
僕は足早にそこから立ち去った。
突然のことで状況を把握出来ず、ひょっとしたらこれも罠なのではないか? 下手に助けると何かのトラブルに巻き込まれるのではと感じてしまったからだ。
しかしどうやらそうではなかったらしい。
見ると老婆はまたふらふらと立ち上がり、再び列に並んだ。
いつまた倒れてもおかしくない感じだった。
いったい彼女を突き動かす思いとは何だったのだろう。そしてあの写真の人物は誰?
今となっては分からない。
ただ、逃げてしまったことが少しの後悔を残した。


(*1)サイクルリクシャー:リクシャーの語源は日本語の人力車。サイクルは自転車のこと。つまりサイクルリクシャーとは自転車タクシーのこと。自転車が人力車を引っ張っている感じ。他にオートリクシャーとは屋根つきの小型オート三輪で、運転手をリクシャーワーラーまたはリクシャーマンと呼ぶ。

(*2)チャイ:インド風ミルクティーのことで、大変甘いうえに生姜やティーマサラなどが入っている。インドの大衆的飲み物でインド中どこに行ってもチャイ屋がいる。



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