ポカラ編

楽しい夜
 サランコットに行く途中では昨日偶然出会った日本人女性と再会した。
ミユキさんは28歳ということだったが僕には30半ばに見えた。
ナラエンもそれにビックリしたらしく
「エー!マジデ?(日本語)」
と言っていた。
「ホントニマジ?」
失礼な奴だ。
ミユキさんは日本では中学校の教師をしているらしく6日間の休暇を取ってこっちにきたのだという。
海外旅行をよくする人でこれまでにもヨーロッパやらアジアやら世界各地を回っているベテラン旅行者だった。
こういった旅行の話をすればきっと教え子も喜ぶのではないか。
それから彼女にもガイドがついていた。
ジョークが好きなかっこいいおじさんだった。
サランコットまでは彼らと一緒に歩いた。

 歩いている道は民家が多く、登山道などではなく完全に地域の人のための道路だった。
歩いていると子供たちが笑顔でわっとたかってくる。
彼らは手をつないで通せんぼするつもりだ。
のどかな光景だ。
しかし、油断していたら袋に入れていたオレンジを盗られてしまった。
やるな!
彼らは外国人を見るたびこうしているのだろう。
さかんに「チョコレートちょうだい。」とおねだりしてくる。
彼らから見れば僕たちは闖入者、好奇心の的、そして羨望の的だ。
昼食のときミユキさんのガイドがこれ見よがしに置いたクッキーをもの欲しそうに見つめる子供たちの姿が印象的だった。
学校が終わったのか僕らの周りは小学校低学年くらいの子供たちでいっぱいになった。
ある子はフレンドリーにまとわりつき、ある子は遠巻きにして僕たちを観察していた。
みんな素朴で子供らしかった。
この子達はインドで出会ったような乞食ではない。
家に帰れば家族が待っているだろう。

 サランコットには3時頃着いた。
ここもすごい絶景だ。
見上げればヒマラヤ、遥か下にはペワ湖とポカラの町が一望できる。
ホテルについてもみなやる事がなくて暇を持て余しているようだった。
夕食後は皆僕の部屋に集まって雑談した。
ナラエン、ヘギョン、ミユキさん、ミユキさんのガイド、僕の五人。
そこでは英語、日本語、韓国語、ネパール語の実に4ヶ国語が飛び交った。
なんと言うことだろう。
こんなごちゃまぜの会話なのにコミュニケーションは成り立っていた。
みんな何の違和感もなく会話をしている。
基本的には英語で大して難しいことは話していなかったがそこはすごく楽しい空間だった。
とりわけミユキさんが素晴らしかった。
笑いは言葉の違いを超えるらしい。
ミユキさんのガイドも面白かった。アフガニスタンの出身だとか言って、ビンラディンは友達だとかほざいていた。
ナラエンはふざけて僕の似顔絵を書いた。
何故か僕の事をママと言い出したので、僕は彼におっぱいを飲ませる事にした。
ヘギョンはナラエンが彼女の名前を忘れたので本気で怒っていた。
部屋からはポカラの夜景が見えていた。
突然ポカラの町の半分が真っ暗になる。
大規模な停電があったらしい。
そんな光景を見ながらまた夜は更けていった。



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