バラナシ編

恐怖のバングラッシー
 この日はある事をしようと決めていた。
バナラシでは簡単に飲めると言われる麻薬入りのラッシー、バングラッシーを試してみるのだ。
一つ断っておくが僕は決してドラッグをやりにインドに来たのではない。
むしろドラッグ目当てに海外旅行するような連中は最低だと思っている。
しかし、何事もやってみない事には気が済まないたちなのだ。
初めからダメなものはダメと決め付けて知ろうとしないのはよくない。
ドラッグを知らずにドラッグをダメとは語れない。
真実は知りえないというわけだ。
ホテルは今までずっとシングルルームを使っていた。
それもあるのでこれまでドラッグを使っている人と会うこともなかったしもちろん誘われる事もなかった。
だからバングラッシーは一人で試すにはもってこいだった。
何とレストランのメニューにも載ってるほどバナラシでは一般的なのだ。
バナラシではバングラッシーは合法とまで言われている。

 早速僕はそれが飲めるというレストランに行ってバングラッシーを頼んだ。
すると店員はすこしニヤリと表情を変えたかと思うと調理場に引っ込みすぐ戻ってきた。
手には草団子のようなものを握っていた。
大麻だ。
彼は回りを気にしながら僕にそれを見せ、どのぐらい入れるか聞いてきた。
「ライト」
僕は言った。
そして、店員はラッシーが入ったコップの中にそれを入れグッチョングッチョン混ぜ始めた。
そして出来上がったのがなんだか抹茶オレのような液体。
飲んでみる。
味も抹茶に近い。
店員の視線が気になる。
僕は7割ほど飲んで終わりにした。
そして、素早くホテルに戻り部屋にこもった。
念を入れて部屋にはちゃんと鍵をかけておく。
体験談を聞くと一時間ほどで効果が出てくるらしい。
以下はそれの影響を刻々と書き綴ったものである。(誤字もそのまま書いています。)



今、始めてから、一時間がたちました。
すごい考えが、すごい速さで浮かんだり消えたりします。
音が妙に心に刺さって気になります。
酒とはくらべものにならないめいてい情態。
不安が次々と心に刺さります。
さっきから外の音が気になって仕方がない。
やばいです。
記憶の時けい列がねじれる。




メモはここまでで、このあとしばらく苦しみもだえたあと数時間眠っていた。
人にこれを話すと「バッドトリップしたみたいだね。」と言われた。
そうか、悪いほうなのか。
でも、もう二度とする気はしない。
予想以上に効果が出たようで自分でも恐ろしくなってしまった。

実際どんな感じだったか説明しよう。
始めて50分ほどで感覚の変化に気が付いた。
妙に感覚が鋭くなり音や光が迫ってくるように感じた。
音はやたらと反響し、ノートに書いている時点でノートの白地がやたらとチカチカして光が強調される感じがする。
その後どんどん集中力がなくなりノートにメモするが困難になってきた。
最後のほうは漢字を思い出すのにかなり苦労する。
そしてメモに残すのは諦めベッドに横たわる。
意識が遠くなると同時にどんどん不安感が高まってきた。
これから自分は死ぬんじゃないか、とものすごくネガティブになった。
実際手足の感覚がしびれてなくなりそれにかなり恐怖を感じた。
感覚を戻そうと必死で頬を叩いたり、足を動かしたのを覚えている。
おそらくこの状態ではまともに歩けなかっただろう。

しばらくすると時間の感覚がおかしくなり、昔の事をよく思い出した。
それがものすごく速い連想ゲームのようなもので、とてつもない閃きがどんどん押し寄せてはすぐ消えていった。
同時に不安感も期待感と入り混じるようになり。
それが波のように繰り返し繰り返し襲ってくるのだった。
時々やたらと口寂しくなりビスケットをぼりぼりと貪っていた。
その後少し落ち着いてくると僕は期待と不安の波の中で眠りに落ち、気が付いたときは日が落ちていた。
結局抜けきるまで6時間以上かかったと思う。

この状態がもし見知らぬインド人の前で起きたらと思うとぞっとする。
実際宿の情報ノートには好奇心からバングラッシーに手を出し、酩酊状態のときに金を騙し取られた人がいたとか、
飲んだあと気分が悪くなり宿のオヤジが心配して病院に連れていこうとしたが なかなか病院側が受け入れてくれなくてかなりやばい状態までいったという話が載っている。
試すにしてもくれぐれも自己責任の下、慎重に行うべきだろう。
僕もここまで効くとは思わなかった(体質だろうか?やたら抹茶が濃い気がしたのだが)。
ドラッグの恐ろしさを身をもって体験してしまったわけである。
それとよくアーティストがドラッグに手を出すと言う理由もこれで分かった。
創造力が高まる(と感じる?)のである。
しかしいろんなアイディアが浮かんで来るのはいいが、それを押し留めておくことが出来ない。
溢れては零れていくのだ。
脳内の神経伝達物質の分泌バランスが崩れ普段使われず忘れられていたところが活性化したのかもしれない。
だから昔の事もよく思い出したのだと思う。
でも、これをずっとやったらそのうち発狂するかもしれない。
自己制御できぬ恐ろしい事態になるのは目に見えている。
興味のある人、手を出すのはとめないけどほどほどにね。



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